2022/10/29

【三者てい談】

もっと自主創造の学びの場に ── 日大商学部の未来を語ろう ──

日大商学部を卒業し、社会の第一線で活躍するリーダーが登場するこのコーナー。
今回はデロイト トーマツ税理士法人理事長 野邑和輝氏と氏がゼミで教わった堀江正之教授、校友会山本裕二会長との三者てい談を行いました。

野邑 和輝氏、堀江 正之教授、山本 裕二氏

大学院商学研究科 1975年修了

日本大学商学部校友会会長

山本 裕二

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経営学科 1999年卒業

デロイト トーマツ税理士法人
理事長

野邑 和輝

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大学院商学研究科 博士後期課程
1986年修了

堀江 正之教授

野邑 和輝氏

経営学科 1999年卒業

デロイト トーマツ税理士法人
理事長

野邑 和輝

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堀江 正之教授

大学院商学研究科 博士後期課程
1986年修了

堀江 正之教授

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山本 裕二氏

大学院商学研究科 1975年修了

日本大学商学部校友会会長

山本 裕二

デロイト トーマツ税理士法人理事長就任の野邑氏

山本 山本
日経新聞には新任社長の紹介記事がよく掲載されています。その中で日大商学部の卒業生を見つけるといつも喜んでいたのですが、今年は見当たらず残念に思っていました。しかし、ある日、野邑さんの記事が出ていて大変に驚きました。デロイト トーマツ税理士法人といえば世界の4大会計事務所、いわゆるBig4の一つであり、優秀な税務のプロフェッショナルが集まっています。そのトップに立ったのが日大商学部の卒業生の野邑さんです。すぐに祝電を打たせていただきました。
堀江 堀江
野邑くんは私のゼミの出身でしたが、何かを指導したという記憶があまりありません。
逆に指導しなかったから良かったのかも知れない(笑)。今日はこのてい談が始まる前に少し言葉を交わしましたが大変に謙虚でした。学生時代もそうだった印象があります。そのように謙虚だからこそ、多くの人から信頼され、今のようなお立場になられたのだと思います。
野邑 野邑
ありがとうございます。大学に入るまで机に向かって真面目に学んだ記憶はありませんでしたが、商学部在学中はこのままではいけないと危機感を持ち、税理士試験の合格を目指して、自分なりに一生懸命勉強していたように思います。そしてデロイト トーマツ税理士法人に入社してからも、自ら学ぶことは継続していました。
堀江 堀江
公認会計士試験や税理士試験は受かってしまうと、周りから先生と呼ばれ、学ぶことを忘れて傲慢になってしまった人を何人も見てきました。しかし、野邑くんは7年ほど前に社会人大学院で学び直したと伺っています。その姿勢も素晴らしいですね。

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実力で勝負できる職業会計人の世界

山本 山本
ところで私自身、「どちらの大学出身ですか?」と聞かれたら、日大商学部出身であると躊躇なく答えますが、相手の方はどう反応していいかを考え複雑な表情になっている場合があります。野邑さんの場合は、社内はもちろん、クライアントもグローバルで活躍する大企業が多く、その担当者も有名大学出身の方が多いと思います。何か引け目を感じることはありましたでしょうか。
野邑 野邑
まったくありませんね。それは、デロイト トーマツ税理士法人自体が学歴を全然気にしない風土があり、「今、何ができるか」しか問わないからです。皆、学歴が人の能力を表さないということをわかっています。また学歴をはじめ、国籍や性など、人に対するレッテルなどを排除し、多様性を受け入れるインクルーシブな社会の構築を目指していますので、クライアント自身に対しても変わってもらうべきだというスタンスを持っています。
山本 山本
税理士という職業会計人を目指そうと思った理由は何ですか。
野邑 野邑
日大は、中堅の私大ですが、言い換えれば中途半端な位置にあります。であるなら一般企業に就職してもそのように映るのではないかと私は思いました。だったら実力で勝負できる職業会計人を目指そうと考えたのです。この分野には税理士、会計士の2つの資格がありますが、私が好む一人でできる仕事は税理士。消去法でここにたどり着いた感じです。
山本 山本
税理士試験の勉強はどこで?何か予備校に通われたのですか。
野邑 野邑
当時は学内に「会計学研究所」というのがあり、そこで税理士試験の科目合格をしていた先輩から教わっていました。あとは講義中も試験勉強です。それって講義に出ていたといえるかどうかわかりませんが(笑)。

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人生や学問に対する姿勢などを学んだゼミ

山本 山本
講義に出るだけ立派ですよ。私は出なかった(笑)ですから。ただ、私は商学部では、ゼミの教授から人生や学問に対する姿勢などを教わりました。それが大学の面白いところではないでしょうか。
野邑 野邑
その意味で堀江先生に教わったことでよく覚えているのは「社会に出たら結論から話しなさい」というご指導です。あらためて考えるとロジカルシンキングの王道だったと思います。
堀江 堀江
そんなこと言ったかな(笑)
野邑 野邑
それしか覚えていないかもしれません(笑)。あの頃の商学部は講義がゆるくて単位も取りやすかった(笑)ですね。だから自由に勉強できたと思います。やらない人はやらない。やる人はやる。どちらも自由です。人から強制されるのが嫌いな私は、そんな雰囲気が合っていたようです。
堀江 堀江
当時の私は本当に忙しく、ゼミでも学生一人ひとりまできめ細かく目が行き届いてはいませんでした。褒められたことではありませんが、それが結果的に自由で学びやすく、モチベーションを高められたのなら有難いですね(笑)。
野邑 野邑
そういえば、「同級生の間でお互いに足にしがみつくな」とも言われました。声の調子はやさしかったが話し方や表情は厳しかったです。
堀江 堀江
そう話したことは覚えています。今も学生たちに、たとえば簿記の検定試験に落ちた場合など、「お互いの傷を舐め合うようなことだけはやめなさい」と指導しています。そういった悪い意味での仲間意識は不要だと思っています。

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自主的に勉強する自分になれた4年間

野邑 野邑
大学に入るまで真面目に勉強していなかったことに罪悪感を抱いており、このままではダメ人間になってしまうと思って取り組んだのが税理士試験の勉強でした。とりあえず手をつけたのが簿記です。でも最初は1分も持ちませんでした(笑)。仕方がないので1分だけ勉強しようと心掛け、それを何日か続けました。やがて1分を超えて2分に。第1問を終えて第2問に。そんな風にいつしか自主的に勉強する自分に変われ、学ぶことを習慣づけられたのが日大商学部でした。過去は変えられないから、今頑張ろう。その気持ちは現在も持っています。その切り替えポイントになったのがこのキャンパスです。
山本 山本
日大の教育理念に「自主創造」がありますが、野邑さんの話を聞いていますとそれを地で言っているように感じますね。
野邑 野邑
人の言うことを聞かず、「右を見ろ」といわれたら左を見るタイプでした。その意味では「自主」に近かったかも知れません。けっして褒められたものではありませんが、人からやらされている勉強は社会に出てからは役に立たないと私は思います。

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一人ひとりが変われば大学も変わる

堀江 堀江
確かに今振り返れば、我が道を行くという感じの学生でしたね。デロイト トーマツ税理士法人でも「彼ならば周囲の意見に左右されず、会社をより良い方向に変えてくれるのではないか」という期待を持てたのではないでしょうか。人物の評価は、最後は人間性だと思います。
野邑 野邑
「変える」という意味では日大商学部も今、変えるべき時が来ていませんか。
堀江 堀江
大学は「学ぶ大切さ」を学ぶ場でなければいけない。しかし、今、大学の講義はわかりやすく、手取り足取りと親切であることを重視する余り、学生たちが自ら考え、気づきを得にくくなっているように思います。学ぶ大切さを感じることができなくなっているのではないでしょうか。また、教員に質問をするのは良いことなのですが、まずは自分で考え、悩んだ形跡が感じられない場合が多いことも気になっています。
山本 山本
確かに企業の最前線では上司に質問をするにしても逆に「自分はどう考えるか」が問われます。また役員クラスでは、自分の意見を持たずに社長にどうしたらいいかなどは聞けません。
野邑 野邑
しかし、若い世代では、企業においても自分が何かをしなくとも誰かがしてくれるというスタンスでいることがマジョリティになっています。その点から考えると、学校教育の在り方自体を考える時期が来ていると思います。
山本 山本
指示待ちがマジョリティである現状を変えるには何をすべきでしょうか。
野邑 野邑
教育によって自分で考え、解決する能力に目覚め、気づきを起こさせるしかないと思います。だからこそ日大商学部も変わってほしいですね。また明確なミッションを持つべきだと考えています。
堀江 堀江
学生も大学自体も内輪でまとまらず、外に飛び出してほしいと思っています。私自身、若い頃から外の方ばかり向いて走ってきました。山本会長は大先輩なので学生時代に接点はありませんが、コンサルティングという競争の激しい分野で、公認会計士として手腕を発揮されてこられたご活躍も常に外に目を向けてこられたからではないでしょうか。日大の外に飛び出す。既成の枠にとらわれない。それが日大のアイディンティになるのではないでしょうか。
野邑 野邑
私も同感です。そのためには、学生一人ひとりがもっとやんちゃになってほしいと思います。不満があるなら、その不満な環境を変えるくらいの気概を持ってほしい。仕事の世界では、自分で歩かない人は誰も支えてくれませんし、今は一人のリーダーが社会を変えるのではなく、一人ひとりが変わることではじめて変革が起こる時代だと思います。

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最後まで諦めずやり抜く力を持とう

堀江 堀江
今の学生はプレゼンテーションではスライドなども上手に使いこなし、非常にスマートに行っています。しかし地に足をつけた学びを最後までやり抜くことも大事です。外に飛び出したときに評価されるは、表面的なスキルではなく、地道な学びを根気強く続けてきたかどうかです。野邑くんもこれまで何度も投げ出したくなった事態に直面したことがあったと思います。そういった中、諦めずに頑張り抜いたからこそ、今の立場があるのではないでしょうか。
野邑 野邑
諦めずに地道に頑張り抜く。平凡な言葉のようですが深い意味があるように思います。今日も日大商学部のキャンバスでたくさんの新たな気づきに出会えました。今回堀江先生と20数年ぶりにお会いして、自分がとても良い先生のゼミで学んでいたのだ、ということにも気がつきました(笑)。日大商学部と、そこで学ぶ学生たちがより良く変わっていくことに卒業生として期待していますし、力になっていきたいと思います。
山本 山本
今後とも校友会のほうもよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。
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経営学科 1999年卒業

デロイト トーマツ税理士法人
理事長

野邑 和輝

商学部時代は堀江ゼミに所属し、会計学を学ぶ。卒業後は世界4大会計事務所の一つに名を連ねるデロイト トーマツ税理士法人に入社し、税理士として国内外の一流企業を担当。2022年7月1日に理事長に就任。

大学院商学研究科 博士後期課程 1986年修了

堀江 正之教授

商学部教授として講義やゼミで学生の指導にあたりながら、公認会計士試験委員や日本監査研究学会会長等を歴任し、金融庁・企業会計審議会委員(監査部会長)、上場会社の社外監査等を務める。

大学院商学研究科 1975年修了

日本大学商学部校友会会長

山本 裕二

大学院終了後に公認会計士としてアーサーアンダーセンに入社し、渡米。その後、国際自動車㈱取締役社長、㈱日興コーディアルグループ取締役、大林道路㈱社外監査役等を歴任。現在も各社の社外取締役として活躍。

野邑 和輝氏、堀江 正之教授、山本 裕二氏